電子カルテ情報共有サービスの概要と内容

電子カルテ情報共有サービスは、医療機関や薬局が保有する患者の診療情報を、地域や施設の枠を越えて共有・閲覧するための仕組みです。医療DXの推進に伴い、今後は医療機関側にもサービスへ接続するための環境整備や、電子カルテとの連携対応が求められます。
ここでは、電子カルテ情報共有サービスの概要や主なサービス内容について、詳しく解説します。
【電子カルテ情報共有サービスの基礎知識】
- 電子カルテ情報共有サービスの概要
- 電子カルテ情報共有サービスで扱う「3文書6情報」
- 電子カルテ情報共有サービスで利用可能なサービス内容
1. 電子カルテ情報共有サービスの概要
電子カルテ情報共有サービスとは、医療機関や薬局が保有する患者の診療情報を、全国規模で共有・閲覧するための仕組みです。厚生労働省が構築し、社会保険診療報酬支払基金が運用を担います。
政府が推進する「医療DX令和ビジョン2030」では、全国医療情報プラットフォームの構築が三本柱の一つに位置付けられています。電子カルテ情報共有サービスは、このプラットフォームを構成する重要な仕組みです。
社会保険診療報酬支払基金を介して「3文書6情報」を共有し、HL7 FHIR(医療情報を共通の形式でやり取りするための国際標準規格)に準拠した形式で情報を連携します。
地域や施設の枠を越えて診療情報を確認できるため、救急搬送時や転院時における患者情報の迅速な把握が可能です。これにより、重複検査や重複処方の削減が期待されます。患者自身による医療データへのアクセス向上と、医療情報の標準化を進めることも目的の一つです。
2025年にはモデル事業が開始されました。医療機関や薬局には、サービスへ接続するための環境整備が求められています。
【参考】電子カルテ情報共有サービス 概要案内 P2~3|厚生労働省医政局
2. 電子カルテ情報共有サービスで扱う「3文書6情報」
「3文書6情報」とは、電子カルテ情報共有サービスで扱うデータを、用途や性質に応じて分類した呼称です。3文書には、診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書が含まれます。
診療情報提供書は病診連携や転院時、退院時サマリーは退院や逆紹介の際に作成される文書です。健診結果報告書は、健診機関が健診・検診結果を共有するために用います。
6情報に含まれる内容は以下のとおりです。
- 傷病名
- アレルギー情報
- 感染症情報
- 薬剤禁忌情報
- 検査情報
- 処方情報
特定の文書が作成される場面に限らず、患者の疾患や既往歴、アレルゲン、使用できない薬剤、検体検査の結果、処方履歴などを確認するために参照されます。
3文書6情報は、原則としてHL7 FHIRに準拠した構造化データで連携されます。自由記述の紹介状をFAXで送る従来の方法とは違い、扱いやすい形式で情報を整理して共有できる点がメリットです。
【参考】電子カルテ情報共有サービス 概要案内 P8~14|厚生労働省医政局
3. 電子カルテ情報共有サービスで利用可能なサービス内容
電子カルテ情報共有サービスでは、以下の4つのサービスが提供されます。共有対象は電子カルテの全情報ではなく、国が定めた文書や臨床情報などです。
| サービス | 主な内容 |
|---|---|
| 文書送受信サービス | 診療情報提供書(紹介状)を紹介先の医療機関等へ電子送付できる。必要に応じて退院時サマリーなども添付可能。 |
| 健診文書登録・閲覧サービス | 登録された健診結果を、本人がマイナポータルで確認できる。医療機関等や医療保険者等による取得・閲覧も可能。 |
| 臨床情報登録・閲覧サービス | 傷病名や検査、感染症、アレルギー、処方などの情報を全国の医療機関や本人が確認できる。 |
| 患者サマリー登録・閲覧サービス | 医師による療養上の計画・アドバイス、傷病名、検査結果、処方情報などを本人がマイナポータルで確認できる。 |
導入時は、電子カルテの対応状況だけでなく、文書の登録・送付、患者への説明、同意確認、受信情報の診療への反映まで含めて、院内の運用手順を整えることが重要です。
これらの情報は、問診や患者本人の申告を補完するために活用できます。救急時の状況把握や、患者の情報を踏まえた診療にも役立つことが期待されます。
【参考】電子カルテ情報共有サービス 概要案内 P4~7|厚生労働省医政局
電子カルテ情報共有サービスの導入が必要とされる背景

電子カルテ情報共有サービスへの対応状況は、2026年度に新設された電子的診療情報連携体制整備加算の算定区分に影響します。この加算の初診時点数は、「加算1が15点」「加算2が9点」「加算3が4点」です。
最上位の加算1の算定を受けるには、共通する基本要件に加えて、下記の条件をすべて満たすことが求められます。
- 電子処方箋を扱う体制
- 所定の条件を満たす電子カルテ
- 診療情報を共有できる体制
つまり、加算1の算定を受けるには、電子カルテだけでなく電子カルテ情報共有サービスを導入して「診療情報を共有できる体制」を用意する必要があります。
一方、加算2は上記3つの追加要件のうちいずれか一つ、加算3は基本要件を満たす区分です。なお、診療情報の共有に関する要件は、電子カルテ情報共有サービスだけでなく、所定の条件を満たす地域医療連携ネットワークで満たせる場合もあります。
各区分の詳しい要件は、下記のリンクからご確認ください。
【参考】令和8年度診療報酬改定について 【全体概要版 】P81~82|厚生労働省保険局医療課
電子カルテ情報共有サービスの導入で得られるメリット

電子カルテ情報共有サービスは、医療機関だけでなく、医療保険者や患者にもさまざまなメリットをもたらす仕組みです。ここでは、電子カルテ情報共有サービスの導入によって得られるメリットを、医療機関・医療保険者・患者の3つの視点から詳しく解説します。
【3つの視点から見る電子カルテ情報共有サービス導入のメリット】
- 医療機関が電子カルテ情報共有サービスを導入するメリット
- 医療保険者が電子カルテ情報共有サービスを利用するメリット
- 患者が電子カルテ情報共有サービスによって得られるメリット
1. 医療機関が電子カルテ情報共有サービスを導入するメリット
電子カルテ情報共有サービスを導入することで、医療機関には主に次のメリットが期待できます。
- 患者情報を診療へ活用できる
- 紹介・転院時の連携を円滑にできる
- 文書送付や問診に伴う作業を減らせる
患者の同意を得た範囲で、他院が登録した傷病名、アレルギー、検査結果、処方などを確認できます。患者本人が十分に説明することが難しい救急時や災害時にも、得られた情報を踏まえた診療を行ううえで役に立つでしょう。
在宅医療や薬局との情報連携を進めるうえでも有用です。
診療情報提供書を電子的に共有すれば、紹介先が来院前に内容を確認できるほか、印刷や郵送に伴う作業の削減も見込めます。6情報の参照による問診・情報確認の効率化も期待できるでしょう。
2. 医療保険者が電子カルテ情報共有サービスを利用するメリット
医療保険者が電子カルテ情報共有サービスを利用することで、主に次のメリットが期待できます。
- 健診結果を早期に取得できる
- 保健指導や受診勧奨へ速やかにつなげられる
- データ化に伴う事務負担を軽減できる
健診実施機関や医療機関が電子カルテ情報共有サービスに共有した健診結果報告書を、保険者は別システムを介して受領できます。事業者などを経由しないため、特定健診や事業者健診の結果を従来より早く取得できる他、事業者健診などの取得率向上も見込まれます。
結果を早期に把握できれば、対象者への保健指導や医療機関への受診勧奨にも速やかにつなげられるでしょう。電子データで受領することで、紙の結果を手入力する作業の軽減も期待できます。
ただし、既存の実績報告などの経路は引き続き残るため、健診結果に関する事務作業がすべて不要になるわけではありません。
3. 患者が電子カルテ情報共有サービスによって得られるメリット
電子カルテ情報共有サービスにより、患者には主に次のメリットが期待できます。
- 自身の医療情報を確認できる
- 医療情報を診療に活用してもらえる
- 紙の文書を管理・持参する負担を減らせる
電子カルテ情報共有サービスからマイナポータルへ診療・健康情報が連携されることで、患者は自身の情報をマイナポータル上で確認することが可能です。
確認できる情報には、健診結果のほか、傷病名や検査結果などの6情報、患者サマリー、医師から提供された療養上のアドバイスなどがあります。
こうした情報を患者自身が確認することで、自身の健康状態や診療内容への理解を深め、日々の健康管理や疾病予防に役立てられるでしょう。
患者の同意に基づき、受診先の医療機関は、他院で登録された検査結果やアレルギー情報などを確認できます。救急時や災害時など、自身の状態や診療歴を十分に説明できない場合でも、患者は過去の診療情報を踏まえた診療を受けやすくなります。
また、転院時にも、それまでの診療情報が受診先に共有されることで、診療の引き継ぎに役立つでしょう。
診療情報提供書が医療機関間で電子共有されれば、患者が紹介状を持参する負担や、紛失・持参忘れの防止にもつながります。ただし、利用できる情報は医療機関の対応状況や登録範囲などによって異なります。
電子カルテ情報共有サービスを導入・運用する際の注意点

電子カルテ情報共有サービスを導入する際は、システムを接続するだけでなく、費用や患者の同意取得、職員の運用体制までを含めて準備することが重要です。
十分な準備をせずに導入すると、想定以上のコストが発生したり、同意確認や情報閲覧の手順が現場で統一されなかったりする可能性があります。
ここでは、電子カルテ情報共有サービスを導入・運用する際に確認しておきたい注意点を、コスト・患者同意・職員教育の3つの観点から解説します。
【電子カルテ情報共有サービスの導入・運用時の注意点】
- 導入やアップデート、運用コストを考慮する必要がある
- 患者の同意取得プロセスを整備する必要がある
- 導入に合わせて職員教育や運用体制の見直しが必要になる
1. 導入やアップデート、運用コストを考慮する必要がある
電子カルテ情報共有サービスの導入を検討する際は、システムの初期費用だけでなく、既存の電子カルテの改修費や導入後の保守費まで考慮する必要があります。サービスとの接続には、所定のHL7 FHIR仕様に沿ってデータを送受信できる環境が求められます。
現在利用している電子カルテが所定の仕様を満たしていない場合、ベンダーによるアップデートや追加改修で対応することになるでしょう。 システムによっては更新や乗り換えが必要となり、費用が増える可能性もあります。
そのため、接続の可否、改修範囲、費用、対応時期をベンダーに確認し、利用できる補助制度を含めて総費用を見積もることが大切です。
2. 患者の同意取得プロセスを整備する必要がある
すでに顔認証付きカードリーダーやマイナ在宅受付Webで同意を取得している場合でも、電子カルテ情報共有サービスを導入するなら、同意取得の流れは改めて見直しましょう。
見直す際は、共有する情報の範囲や目的、誰が情報を閲覧するのかを患者へわかりやすく説明できるようにします。あわせて、取得した同意結果を院内システム上で確認できる運用を整えておくことも大切です。
顔認証付きカードリーダーでは、電子カルテ情報共有サービスへの対応に伴い、これまでとくらべて個別に同意を求める項目が変わる場合があります。
画面の表示や遷移は機器によって異なるため、自院の実機で確認し、患者が操作に迷った際の案内方法を受付スタッフ間で統一しておきましょう。
一方、診療情報提供書を紹介先へ電子送付する場合は、受付時の閲覧同意とは別に、送付前に患者から口頭で同意を得ます。説明担当者や同意結果の記録・確認方法に加え、患者が同意しなかった場合の対応についても、あらかじめ院内手順として定めておきましょう。
3. 導入に合わせて職員教育や運用体制の見直しが必要になる
職員教育では、既存のオンライン資格確認に関する研修内容を踏まえながら、電子カルテ情報共有サービスの導入によって追加・変更される業務を職種ごとに整理し、対応手順を周知します。
- 受付:同意画面の変更点や、操作に迷う患者への案内方法を共有
- 医師・クラーク:同意結果の確認方法や、診療情報提供書・添付文書の登録・送信手順を統一
- 医師・看護師・薬剤師:他院から受信した傷病名、検査結果、アレルギー情報などの確認方法と、診療への反映手順を整理
- 医療事務・管理者:アクセス権限の設定、連携エラーへの対応、問い合わせ先、障害時の代替手順を整備
電子署名を採用する場合は、自院が選択する署名方法に応じて、必要な操作手順も研修内容に含めます。電子署名はサービス利用における一律の必須条件ではないため、自院の運用に応じて研修内容を整理しましょう。
また、職員が情報の確認先を混同しないよう、電子カルテ情報共有サービスで確認する臨床情報と、電子処方箋管理サービスで確認する処方情報の取得経路についても共有しておくことが大切です。
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【関連記事】医師協Zebra|組合員の医師向けに開発された電子カルテ
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この記事の著者
羽吉 智子
JRCE ORCAインストラクターグループ リーダー
JRCEのORCA事業開始当初からインストラクターとして従事。ORCAの導入から運用まで、現場目線で医療機関様に寄り添ったサポートをご提供しています。
